『一週間フレンズ。』第8話レビュー
もうすぐ夏がきますね。
『一週間フレンズ。』第8話を観て、高校時代の『夏の前日』のあのほろ苦いような、甘酸っぱいような、それでいて確かに夏を待っている高揚感を思い出しました。実際には、高揚感よりもダルがっていましたが。苦笑
同作品の見始めの頃の前のレビューの続きになります。
(阿部共実『空が灰色だから』の全話レビューは1/3程度書き終わったところで、長過ぎて個人的な意味で精神的にダレてしまったので、気分転換的にアニメ各話レビューにします。苦笑)
改めて、メレンゲと、そしてBase Ball Bearが聴きたくなるお話でした。
第1.2話レビューで、この作品は国内のアーティストであれば、切ない恋心とそれに揺れる感情、しかしどこかで確実に噛み傷を残していく初期のメレンゲのような世界観が非常に似合うこと、藤宮さんと長谷くんの「密室的な」関係がゆえにヒロインである藤宮さんが抑制された(?)エロティックな感じに映るということを書きました。
そんな2人の関係も8話に至るまでにかなり変化がありました。
大きいのは、最初期より桐生くんと山岸さんが介入してきたことで、藤宮さんと長谷くんの密室的な関係の質が変わってきたことでしょう。
まあ最初期の描写から、桐生くんも藤宮さんに大きく関与するだろうとは思っていましたが、山岸さんの介入は意外でした。最初は違和感があったことも否めないけれど、今話においてその印象を大きく払拭し、長谷くん・藤宮さん・桐生くん・山岸さんというサークル(いわゆる「いつものメンバー」)の一つの綺麗な完成系のようなものが観られたと思います。
前話までで、あまりに純粋すぎるがゆえに(前のレビューに書いたような「あまりに痛い純粋性」)、藤宮さんを独占することを良しとせず、桐生くんと山岸さん(とその女友達)と色んな人と藤宮さんの接点を作ってあげるor交流を見守っている長谷くんでしたが、前話で「2人で」という言葉を多用しながらも、自分と藤宮さんの関係を更新し、それが他の、広がっていく「藤宮さんと○○」の関係とは違ったものにしようとする姿勢が観られて、前口上としては良いものでした。
今まで、長谷くんの献身性によって、ボーイ・ミーツ・ガールものというよりは、あまりにガール・ミーツ・ボーイに近い足取りでストーリーが進んでいったようにも思いますが、前話において長谷くんが前に出たことによって、ボーイ・ミーツ・ガールものに軸足が戻った感じがしました。
これは成人向けゲームが原作のアニメではないので、そこからさらなる大きな一歩は描かれません。
しかし、それがゆえに、8話は、アバンチュールとまでは言えない不器用な高校生の一夏の素晴らしい思い出がとても綺麗に描かれていて、少し感傷的になりました。そして、それは上手くいかない、けれど、間違いなく輝いていく/いた「いつか」の記憶を思い起こさせるもので、端的に、とても素晴らしかったです。
「いつもの4人」で、その中に想いがあって、それに察してお膳立てしてくれるメンバーがいて、近づきたい、けれど、近づくにはあまりに壊れやすすぎて、恋仲とも友情とも言えない関係に不器用になってしまう…王道すぎるほど王道の青春文学のワンシーンです。
それを直球で描いてくれたので、「ああ、藤宮さんと長谷くんの密室感は明確に質が変わったんやな、そして『これはもう男の子の代表文学』やわ」と、ほろ苦いものと甘酸っぱいものを感じました。
「奏(かなで)」(TVアニメ『一週間フレンズ。』エンディングテーマ)
- アーティスト: 藤宮香織(CV.雨宮天),大橋卓弥,常田真太郎
- 出版社/メーカー: 東宝
- 発売日: 2014/05/21
- メディア: CD
- この商品を含むブログ (8件) を見る
劇中冒頭、藤宮さんは長谷くんに「海に行こう」と持ちかけます。もうこの時点で王道中の王道のきらめきがありますが(何が?夏と「君」と海、そしてその淡さが)、当然の如く、そこは長谷くんの「(2人で)」という脳内希望は押しのけられ、4人で行くことに。
山岸さんの連絡先が分からず、躊躇しがちな長谷くんを桐生くんが相変わらずの要領でアシスト。海に到着した時は、まるで、先クールの『ゴールデンタイム』の幽霊万里が細工したかのような、豪雨に。
カッパ着た山岸さんは藤宮さんと「砂のお城を作ろう」(当然の事ながら?、メレンゲ「すみか」の一節を想起せずにはいられませんね…全くシチュエーションは違いますが。笑)としたりしますが、やっぱり雨は酷いのでゲーセンで時間を潰し(ここのプリクラ感がとても懐かしくなりました…が、最近の高校生もまだプリクラ撮るんですかね?最近自分があまりに撮ってないから、過去の遺物感が出て来てしまっている。苦笑)、もう一度、砂浜に戻ると晴天に。
ここらへんからラストにかけて、青い時間の密度は増します。
「お昼ご飯を買い出しに行く組と砂遊び組を2x2になるようじゃんけんで決めよう」との長谷くんの提案。もちろん、藤宮さんとのペアを図っていたのだけれど、結果、桐生くん×藤宮さん、長谷くん×山岸さんペアに。ジャンケンには勝ったっぽいのに、残念そうな長谷くんを尻目に桐生くんたちはコンビニへ。
そんな長谷くんに山岸さんが一言、「ねーねー香織ちゃんのどこが好き?」。
この発言に、思わず「!?」。
正直に言うと、これまでにおいての山岸さんの登場はいささか唐突に思えていて、最初は「何や、このマイペースすぎる人、天然サークルクラッシャーちゃうんか…空気読んで長谷くんと藤宮さんと桐生くんの仲を壊さんでくれ…」と思ってたのですが、この発言で、「あ、この子、ちゃんと空気読んだ上でマイペースやってたんだな」とかなり安心しました。
と言うか、創作でも現実でも、普段超マイペースな人が、肝心の時に核心を突く発言をストレートにできる人はドキッとしますね(人間的な魅力という意味で)。
話を戻して、
長谷「いきなり何!?」
山岸「顔?性格?」
長谷「べっ別に俺はそんな変な気持ちで藤宮さんをみてる訳じゃないから!…純粋に友達として付き合ってるだけだから!」
つめよる山岸さんに対して長谷くんは、あたかも「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」くらいのテンションで否定します(かなりどうでもいいですが、この「童貞ちゃうわ!」って元ネタ、At The Drive-In「Sleepwalk Capsules」の歌い出しあたりの空耳なんですね。笑 たしかに聴き返したらそう聴こえる…Cedric…lol)。
ここで、全否定するところが本気で恋に落ちてる男子だなぁと思ったり。この全否定具合って、逆説的に「顔とか性格とかそういうの超えて全部好き」って言ってるみたいに聴こえますしね、聞いた側からすれば。笑
山岸さんは藤宮さんの胸の話にふり、「そういうのいいから!」みたいなテンプレート通りにオチがくるのですが、ここで山岸さんも彼女なりの献身的な気持ちがあるんだなと思えました。
一方、桐生くんと藤宮さんはコンビニへ。
桐生くんはむしろこの機を活かして、こちらもどストレートに藤宮さんに「あいつのことどう思ってる?」と問いただします。
藤宮さんは当然の如く「良い友達と思ってるよ?」と返すだけ…と思いきや、「前に長谷くんが『他の人』と話してるのをみた時モヤッとした」と答えます。間髪入れずに、桐生くんは「他の人って女子?」と。「何で分かったの?」と藤宮さん。
桐生くんのアシスト力は半端ないのでそこで食い下がることなどせず、疑問を疑問のまま置いておきます。相変わらずイケメンすぎる。
お昼ご飯と共に花火を買った藤宮さん。浜辺に戻り、山岸さんと戯れます。
先のこともあった桐生くんは長谷くんに「なぁこのままで良いの?もっと押した方が…」とハッパをかけます(いや、ハッパをかけるもクソも視聴者側としては、やっと言ってくれたかという感じもありましたが。苦笑)。
またも天性のアシスト力を活かして、今度は長谷くん×藤宮さん、桐生くん×山岸さんになるよう、気をきかせます。物凄くイケメンすぎる。長谷くんは桐生くんを友達にもった時点でもう勝算(?)はたったも同然かと思える…
のですが、美しい海辺の作画をバックにしたお散歩に藤宮さんが誘ってくれたにも関わらず、長谷くんはヘタレまくります。完全に「チェリーの方かよ!」とツッコミを禁じ得ないまでに。途中でちょっとモーションをかけるも失敗と言うか、言い切らずに終わるし。。
夜を迎えた4人は浜辺で花火。
ここで、1人黄昏れる長谷くんに、藤宮さんが「長谷くんの花火の火、くださいな」と寄ってきます。
これ、喫煙者の方なら分かるかと思いますが、普通の花火のそれではなくて、シガーキス(一方の煙草の火を火種にもう一方が煙草を点火すること。表現でも現実でも両者の親愛を表すことが多い。当者調べ)を思わせる描写ですよね。天然藤宮さん、おそろしや。
2人の花火は消え、束の間の沈黙の後、藤宮さん、
「長谷くん、私、好きだよ」
(「!?」)
「花火」
と倒置法を使って、惑わせます。天然小悪魔藤宮さん、おそろしや。
そして、藤宮さんの「最近好きって言葉を使いたくなる。この現象は何て言うんだろう?」と、素敵ナレーションで締め。
と思わせながら、次話以降の波乱を呼びそうなアシメボーイの登場で幕は閉じられます。
今話、4人のキャラクタの魅力が鮮明に伝わってくるストーリーで素晴らしかったです。
ヘタレチェリー満開の長谷くんと天然小天使藤宮さん、それを温かくサポートする桐生くんと山岸さん…「一週間で記憶がリセットされる」という設定を忘れ、完全な青春ものの一ページとして輝いていたように思います。
こういう「いつものグループ」に想いがあって…みたいなものって無条件に琴線にくる質なんですが、その中でも海、夏、高校生(ハイティーン)の魅力を濃縮したような話にいつかのことを思い出しました。そしてさらにそういうのは琴線に触れます、個人的には。
ここまでボーイ・ミーツ・ガールものとしての美しい世界を描いた後に、どうやら次話以降、アシメボーイによって若干のシリアス展開になるようです。個人的にプロフィール通り、鬱展開・修羅場・嫉妬みたいな展開は大好きなんですが、この作品においては、和らげてほしいか突き落とすならもうどん底まで突き落としてほしい気持ちでいっぱいです。
そして、この甘酸っぱすぎる物語構成から、メレンゲはもちろん、Base Ball Bear的な青春ギターロックバンドを聴きたくならずにいられませんでした。
冒頭あたりの"これはもう男の子の代表文学"は、「BREEEEZE GIRL」からの引用ですが、今作において、Base Ball Bearの一曲を挙げるならば、「BOY MEETS GIRL」でも「彼氏彼女の関係」でも「CRAZY FOR YOUの季節」でもなく、「Perfect Blue」一択でしょう。
Boy meets girl それがすべて 君がいて僕がいた日々はきっと 永遠の瞬間(…)
ほとんどを忘れ たくさんを失う
でも 青い君は美しくなる
太字で強調しつつ引用しましたが、「あの時の一瞬」を思い出さずにはいられないんですね。それは、今話での夏、海、花火の描写も言えます。
現実も含め、多くのラブストーリーにおいて、夏や海というものは、明るさと同時によせては返す波のように脆さ、儚さをも思わせます。
そこに花火も加えるとなると、一時、パッと鮮やかに光って、でもすぐに消えてしまう、それを何度も繰り返す…ということを思わせますが、これらってまんま『一週間フレンズ。』における、(長谷くんと)藤宮さんのことのように思えるんですよね。
そもそも花火というシチュエーション自体、一瞬の清冽な時間、一瞬がゆえに永遠とも錯覚してしまう一時といったような儚さがありますが、藤宮さんにとっては、より深刻というか芯に迫るもののように思えます。この記憶も消えちゃうかも知れないですしね。
ただ、引用した歌詞のようにそれを乗り越えても、どんどん「青い君は美しく」なっていってるというのが今作のキーとも思えるというか。
長谷くんと藤宮さんの密室感は変わりました。
屋上の誰も触れない2人だけの場所を越えて、藤宮さんの人間関係が広がっても、長谷くんとの関係は変わりません。むしろ、外部に開かれてからの方が、より、皆と一緒にいる中で一瞬、目と目が合う時の2人だけの密室…健全になったように思います(いや、前から健全ではあったけれど、最初期の関係からはちょっとエロティックに邪推してしまえたのは、青年漫画的な世界観に馴染みすぎたからか…?)。
それにも増して、藤宮さんも明確に長谷くんへと気持ちが向かっていって戯画的にすぎるにも関わらず、泣ける。
ここまで青春の輝けるページを見せつけられたら、ありそうでなかったような、なさそうであったような、いつかのことを思い出し、それの補正も増して、素晴らしいお話だったと思える訳です。
個人的には、今期観ているアニメの中では最も素晴らしい作品ですね。
先の通り、これからのシリアス展開が作品相応に和らぐかあるいは完全にこのお話での記憶をどん底に突き落としてくれたら、最終話を観終わってもあまり評価は変わらないと思う。
原作買いたいのだけれど、ない。そういう時はKindleストアで買うのだけれど、Kindleにもない。と言う事で全く未知のまま次話以降も楽しみです。
余談ですが、今話中に出てくる海は江ノ島、由比ケ浜らしいです。
と言っても生粋の関西人の自分は、神奈川の地理をほとんど分かっていないので(仕事で新横浜に行ったことあるくらい…)、アレですが、『School Days』(と言うよりは、その続編の『Summer Days』)と同じ場所なんですかね?
あれは相模原市のようですが(劇中では原巳浜ーハラミハラというクソひどい名前。笑)、あの浜と今回の浜が似てた気がする。
まあ由比ケ浜というと、ASIAN KUNG-FU GENERATION『サーフ・ブンガク・カマクラ』なんかも合う訳で。なんか下北系ギターロックを想起したくなる話でしたね。まあこの作品自体、下北系っぽい作風なんですが(先にも書いたように「砂の城を作ろう」ってシーンなんかはまさにメレンゲきた!と思いましたし)。
国内のアーティストばかり挙げましたが、海外のアーティストだとSeaponyとかReal Estate聴きたくなる話でしたね。
と言いつつ、やはり、観終わった後に無意識に聴いてたのは即、Base Ball Bear「Perfect Blue」でしたが。笑