ワールズエンド・サテライト

アニメ・漫画の感想・考察,アニソンレヴューのページです。京都の院生2人で編集・更新しています。

『ゴールデンタイム』総話レビュー

なかなか2014年春アニメが時間と余裕がなく溜まっているので、前期のアニメの総話レビューを消化しようと思います。

 

今回は、大学1回生の非常にリアリティのある恋愛模様(たまに痴情沙汰)をドラマではなくアニメ作品として秀逸に描いたーそれがゆえにアニメファンの方々にはなかなか賛否両論だった…という声も聞かれるー『ゴールデンタイム』について。

 

まずこのレビュー、以降、私情が見え隠れすると思われるので、ご注意を。

先に書かせてもらうと、個人的には普段ラノベはほぼ全く読まないのですが、初めてアニメから原作のラノベを買ってみたいと思った作品です。

あと、特に、2期はOP・ED共に前期アニソンとしては突出して良かった。それについてのレビューはこちら

 

まず、何よりも思ったのが、もうのっけから大学1,2回生の頃の気持ちと恋心をめちゃくちゃなまでにリアルに描いた作品で、かなり昔を思い出して心が痛くなってキツかったということ。苦笑

 

放映初期の当時(去年の11月くらいに万里くんと香子さんが付き合った最初の週)、スマホのメモ帳にも雑記として書いてたんですが、それを引用すると、

「今週の『ゴールデンタイム』、あまりの(1回生ならではの少し慣れてきた大学生活と新しい人間関係の調整、そして距離を縮めたくて生き急いでしまうなど本人は苦悩してるはずが客観的にみれば)いちゃラブぶりがあまりに痛々しくて過去を顧み、吐血しそう…」

「これは新入生としてある種の大学生活を送った人には、確実に100%を誇る(混乱して語彙錯乱)殺傷力がある。何だこの初々しい感じとそれにつけて青臭く痛々しくて、懐かしみも許されず、ただ吐血しかできん惨状は。。『あの時は何だかんだで良かった、もうあれは返ってこない』的な感傷の隙間さえないなんて…」

「何か今まで『なかなか泥臭くてドロドロでいいなぁ』くらいの作品だったが、今回の話だけで吐血しながら原作買い読んで落ち込みたい気分になった。そして本人はその時に苦悩しかしてないつもりが客観的は絵に描いたような1回生生活を送った人と朝まで飲み明かしたい鬱加減」

「しかも何が怖いって、ある程度、戯画化されてるけど、こういう新入生生活を送っただろう人がそれなりの数いて、大きな目でみれば、そんな人間の1人の前日譚でしかないというところ(こういう仲は大概うまくいかない)。自分も全く違うベクトルで喪失してた1回生の夏頃の記憶が瞬時に蘇って鬱」

とすごいメモり様だったんですが、このメモ通り、最初は「なかなか泥臭くてドロドロで良いなぁ」程度だったんですが、あまりに大学1回生の高校とは違う解放感(間違った全能感と言っても良いかも)とそこで結ばれる恋愛関係に個人的に当時を思い出して、あまりに痛くてキツかったです(褒め言葉)。

 

 

さて、話は一気に飛んで、今年3月半ばのメモではこう書いています。

「2クールものが今期はなかなか…と思ってたら『凪あす』に続いて『ゴールデンタイム』も大爆発しだしてたまらん。のっけから「1,2回生の若かった頃を鈍器で殴られるかのように強制的に思い出させられて色んな意味でしんどい」快作だったけれど、ここにきてメンヘル男子×メンヘル気質はあるもののどうにかそれを克服した女子カップル=ズブズブになりながらもいつか離れるという現実を生々しく描いてて、もう吐血さえしない」

いやあ相当変な形で感情移入しちゃってますね。我ながら気持ち悪すぎます。苦笑

 

 

やっぱり文系のモラトリアム低回生大学生特有(??)の人間関係の縺れと絡まる恋心については一貫してかなりのリアリティをもって描いてたと思えます。そういう意味で、個人的には、メモ通り、鈍器で殴られて強制的に昔を思い返されているような感じでした。

あと特にサークルや専攻で繋がっていない"お決まりの男女混合の少人数グループ"があってそれで結束する感じももう大学入学当初を思い出されて…。。

とらドラ!』は観ていなかったのですが、『とらドラ!』もそういう人間関係の不確かさや個人の抑えられない情念などを描いた作品と聞きます。僕はこれが初の竹宮ゆゆこ作品だったので、本当にありそうな感情の暴走を描いたものとして感服させられました。

 

また、万里くんとリンダ先輩はちょっと特殊だとして置いといても、香子さんはもちろん、準主役キャラ、やなっさん、岡ち、2次元くんなんて、本当「こういう大学生いるいる!」って思いながら観ていました。

 


アニメ『ゴールデンタイム』新番組予告 [GOLDEN TIME] - YouTube 

 

万里くんとリンダ先輩は一旦置いておいて一人一人見ていきましょう。

香子さん:幼馴染みのやなっさんに執着するストーカーキャラ(若干ボーダーラインの気さえ感じられた)という一風変わった登場の仕方ではあれど、やなっさんに明確に拒絶されてから万里くんに心を許し、遂には想いを寄せる様はリアルだなぁ、と。ここで香子さんをビッチなんて中傷するのは、この作品にあまりにアニメ的リアリズムを求めすぎているように思います。実際、あの弱った状況で万里くんを想うようになるのは現実的だな、と。

そして彼女はまるで今まで女子校育ちかのような世間知らず、愛情の示し方を知らないような不器用な女の子でありながら献身的に万里くんを想う様は軽薄さはなく、まさに「あるある!」(「いるいる!こういう1回生女子!」)という感じです。終盤はどんどん壊れていく万里との関係に逡巡してしまいますが、そこでの決断もまさに現実にありそうな感じ。以降は後述とします。

 

やなっさん:基本的に万里くんに心を許す親友でありながら、途中からリンダ先輩や崩れていく万里くんに堪えかねて、みんなと距離を置く。リンダと万里の仲を疑うのもリアルだし、最後の最後寸前まで万里に裏切られた…と感じてたっぽい描写があるのも現実的です。彼はいわゆる"残念イケメン系"なんですけど、それも現実的な残念イケメンタイプ。タイミングとか想いの伝え方や行動がどうにも不器用なんですね。人間味がある

あの岡ちへの勢い任せな告白とかこういう感じでノリに任せて言ってしまう男子っているよね的な感じで…苦笑 そこから、リンダ先輩へ想いを向けるのも、香子さん同様、リアリティあると思います。

 

岡ち:この作品中、最も際立って「現実にいそう」なキャラです。基本的にノリ良く皆を巻き込んで空気を読みつつ、その上で空気をほぐす感じの明るく優しいキャラクタ。しかし、その内ではとても女性的な強かで妬みや嫉みといった普通の感情を持っていて、その実、本心のつかみ所がない。こんな学部女子ってすごくいると思います。"岡メラ"とか一見、マイペースなところを顕示しつつ、むしろその積極的に明示されたマイペースさがゆえに、心の奥底には踏み入れられない感じ。いそうですよね。

彼女はやなっさんのノリに任せた告白をフり(いやまぁ普通、あれはフるだろうけど)、終盤において、実はやなっさんに想いを持っていたと嘆きます。そして、万里くんに「やながリンダ先輩に見向きもされてないって分かって、その時に思っちゃいけないのは分かってるけど…どうしても思わずにはいられなかった。良かった、って」と吐露するシーンは、終始可憐な振舞いに徹する彼女の人間らしい歪みが見れた名シーンと言えるでしょう。

まぁ最後、やなっさん×リンダも暗示されたことで、彼女はその強かさに対してかなり報われない感じになってしまう感もありますが…(2次元くんとはある種、基本性質が重複し気味の分、それも想像し難いし…)

 

2次元くん:作中、唯一、誰との(いわゆる)"フラグ"も立てずに、「リア充くたばれ!」と悲鳴に似た呻きを発する人物…にも関わらず、だからこそ、誰よりも"いつもの6人"の関係を心から大切にしているキャラ。その母性愛的とさえ言える献身性は、どのキャラにも均等かつ過不足なく注がれるもので、ニコニコ動画で観ていると「2次元くんは最後の良心」とかコメントされていて、その通りだよなぁと思ったり。苦笑

他のキャラがどうにも抑え切れない感情があって、醒めた目線でみればワガママとも思える行動を起こしているなか(だからこそこの作品はリアルだと思える訳ですが)、彼は一貫して、気遣いを徹底してる。それは彼自身の交遊関係の狭さもあるかも知れないけれど、本当に"いつもの6人"を信頼して、良い関係と思ってたからこそだよなぁと思ったり、そして、そういう人もまた現実にいるよね、という。

彼の献身的な優しさは作中最初から最後まであるのだけれども、特にそれを感じたのは、万里くんが記憶障害であると公園でカミングアウトして、それをあたかもカウンセラーかのように見守っていたところと最終盤、再び記憶をなくした万里くんに変わって香子さんにメールを続けていたところですね。

彼はめちゃくちゃ優しく良いヤツなので、報われてほしい…(原作では番外編で恋人ができるようですが)。。

 


で、万里くん。

やっぱり思うのは、どうしても、一般の視聴者としては、記憶障害ゆえの脆さと言うのは実感として想像しにくい(しかもそれが愛すべきヒロインでなく主人公であるなら尚更)ということ。


終盤において、過去の人格が突如現れて「リンダー!!助けてくれ!!リンダー!!」と絶叫するシーンはあまりに痛々しい(痛いではない)し、やっぱり視聴者としてはメタ視点を持ってるので、香子さんの前でやめたれよ…と思う訳です。

もちろん、彼なりに物凄い葛藤はあったんだろうけど、それで中盤の中途半端とさえ言える幽霊万里の存在(しかもそれが内的世界の幻覚であるだけでなく、天候とか操ってる風だったり、他キャラを仲違いさせたりする描写さえある)が前面に押し出されている点からも、どうにも脆すぎる印象を受けるのも事実です。


最初はやなっさんと香子の仲を調停しつつ、どちらも気遣う良いやつだったんですけど、そこは一筋縄ではいかない主人公格。彼のリンダとの関係は、あんなに不安定だったのにどうにか自立できていた香子さんにはあまりにキツかったと思えます。実際、香子さん、本当に頑張ったけど、そりゃフる素振りは見せるよね、と同情してしまいます。ここもリアリティあるなぁ。

いや万里くん、全体的に見れば全然嫌いじゃないんですけどね。ただ幽霊万里の存在が中途半端だったがゆえに、どうも…ね。。



物語最終盤で、万里くんは過去の万里くんの記憶を取り戻し、それの代償として、大学の頃の記憶が一旦完全に失われてしまいます。

大学も休学し実家に帰って隠居生活を送る万里。そりゃきついでしょうし、当然です。


問題はラストシーン。香子さんを迎えに、例の落下した橋へ向かうところ。

ここからいきなり内的世界と現実が交錯して、劣化した今敏的な感覚が浮かび上がります。

最後の幽霊万里との対話やリンダとの声援の投げ合いは何かサイケドラッグをキメたかのような(あるいは妄想世界に埋没して自己内対話を決め込んだような)不可思議な世界が描かれますが、ここはいかにも評価は別れそうです。僕自身、感覚的には納得しつつ、もう少し上手く表現できたのでは?と思っている節もあります。一考どころか数考の余地がありますね。


とは言え、最終的に香子さんとバカップルに戻って臭いセリフを吐きまくる2人の大団円は素敵だなぁ、と。

香子さんの帰来の強かさが映えるシーンでした。


総評としてはやはり何よりリアリティに満ちた現実的な痴情のドロドロ、制御できない感情の発露と1回生ゆえの解放的な(それがゆえに勝手に運命的だなんて思い上がってしまうまでの)恋愛模様を描いた作品として、よくこれをドラマではなくアニメ、しかも2クールでやってくれた!という点で前期ベスト3に入る作品でしたね。

そしてラノベと言う表現力を見誤っていたことを痛感させられました。ラノベでもこんな表現が可能なんだと思わせられたという点で、原作にまで惹きつけられた作品とも思います。



さて最後に現実的な作風に則して現実的な推測を。

劇的な恋愛劇を繰り広げた万里くんと香子さんカップルですが、僕としては、彼らは多分、もって大学卒業まで、早ければ2年くらい、通常ならば就活が煮詰まった時期くらいに別れるんじゃないかなと思います。


やっぱり彼らの関係って何度も繰り返しているように、大学1回生特有の恋愛観(地方から出てきた少年少女が出会い、幾多の災難を乗り越えて、相手をファンタジックなまでに信じ切る)ならではと思うんですよ。

あんまり、社会的じゃないと言うか、モラトリアムならではという側面が強い。

そういう点で、最後の子どもっぽい時間特有の万能感に満ちてるんだけど、これ、自分自身やプライベートの友人を見返すとどうしても一生添い遂げるような仲になるとは(ある程度成長してしまった今だからこそ思うのだけれど)思えない。


かと言って彼らの関係が陳腐であるか?ただの取るに足りない子どもの変愛か?と聞かれれば、その答えははっきりとノーと言えるでしょう。

彼らの関係、2人(あるいは6人)で幾多の問題を乗り越えて来た様は、その時でしか味わえない、何にも代え難い財産と思えます。

所詮、子どもの恋愛なんて嘯く輩にはハッキリとFサインを出しちゃって良いとさえ思います。

大人は大人の恋愛がある。子どもは子どもの恋愛がある。そのどちらもが全身全霊のものであるなら年齢問わず、一切の優劣はないでしょう。


多分、万里くんも香子さんもいつかは別れるんだろうけど、きっと所帯を持った頃なんかに、あの時、あの経験ができて心から良かったなと思えるんではないでしょうか。そしてそれは人生において財産でしょう。

僅かな希望を込めつつ終わります。