ワールズエンド・サテライト

アニメ・漫画の感想・考察,アニソンレヴューのページです。京都の院生2人で編集・更新しています。

爬虫類漫画3選 :『つるつるとザラザラの間』『マドンナはガラスケースの中』『秘密のレプタイルズ』

 

2016年夏アニメも物凄く良いアニソンが多かったのに(今年は本当に突出して素晴らしいアニソンが多い)、色々タイミングが重なったので、そちらを後回しにして衝動的にこういう記事を書いてみます(ダビさんが漫画記事書いてて羨ましいと思ったのもある)。

 

タイトル通り、爬虫類をテーマにしたナウい漫画を勝手に選出。月子『つるつるとザラザラの間』、スガワラエスコ『マドンナはガラスケースの中』、鯨川リョウ『秘密のレプタイルズ』の3冊です。BGMはNINE INCH NAILS「Reptile」(『The Downward Spiral』)で。Flying LizardsなどもOK!

 

 

 

さて、使い古された文句ですが、あえて…

勉強やら研究やら仕事やらで疲れて帰ってきて、家で1人。特別、「ただいま」と声かける相手もおらず、洋服もテキトーに脱ぎ捨て、だーっと寝床にダイブする光景…そこにペットがいれば、思わぬ癒やしがあるかも知れません、と。

とは言っても、犬や猫を飼うには、できる限りペットOKの賃貸を借りるべきでしょうし、それも含めて特別な環境、お金がかかるでしょう(自分も犬を飼っていたので、彼らと付き合うためにさまざまな設備が必要なのは分かります)。

しかし爬虫類ならば、多くの哺乳類につきものの問題はクリアできます。鳴かない、(当然ながら)毛は落ちない、ほぼ無臭、入門種といえる動物ならばほとんど特別な環境はいらず、餌代安い、餌やり頻度も少ない(トイレの問題を除けばある程度なら家を空けられる)。優しい気持ちなく扱うのはダメですが、結構ズボラタイプな人でも飼えます。

にも関わらず、彼らは可愛い。餌を食べている時、うとうとしている時、あくびしてる時なんかはもう癒やしオーラを放ちまくっているし、懐きこそしないものの、慣れるとケージを開くだけでこっちを向いてくれたり、ハンドリング(手に乗せて触れ合う)もできる。それに、彼らは意外に感情表現をしています。ヘビでも喜んでいる時なんかは仕草でそれが伝わってくる。とてもキュートです。

 

僕は、ほぼ定番種と言えるヒョウモントカゲモドキフトアゴヒゲトカゲ、サバンナモニターを飼っています。

 

さて前口上長すぎなのも相変わらず鬱陶しいので、3作を紹介していきます。

 

1.月子『つるつるとザラザラの間』

 

 

フィーチャーされている爬虫類:ヒョウモントカゲモドキ、リクガメ、グリーンイグアナなど

 

実家が専門ショップなのに実は大の爬虫類嫌いなヘタレ男子・環と、対照的に無類の爬虫類好きでどこか人とはズレた感性を持つゆるふわ女子・さや、思春期真っ盛りな中学2年生カップルのラブコメ。甘酸っぱい。

音楽で例えるなら、『スリーアウトチェンジ』〜『Jump Up』の頃のスーパーカー。シューゲイズなのだけど、ささくれ立った、というよりも青い季節に困惑して拗ねたようにも見せながらそれに向き合っているようなノイズサウンド、こちらも恥ずかしくなるような…手を繋ぐだけで精一杯な男の子の独白みたいな詞世界に似てるかも。

漫画では、犬上すくねさんや谷川史子さんの描く穏やかな空気感に似たものを覚えます。

 

この作品は、後述する2作に比べるとかなりピュアなラブコメ度が高く、爬虫類は2人を結ぶキーワードとして立ち現れてくる構図。例えば、2人の間に一悶着あったとして、爬虫類の習性なんかにその問題を解くカギを見つけるといったような。

とにかく、キスでさえ恥ずかしくてとてもとても…な中学生カップルの初々しさが素敵。そして何をとっても、爬虫類ラブでマイペースなロマンチストの彼女・さやちゃんがとてつもなく可愛い。

ぶっちゃけて言えば、ゆるふわボブ、ガーリッシュ、普段はお淑やかなのにここぞという時には積極的、爬虫類ラブをはじめ少し普通の人の感覚からズレているけどそれゆえ冴えない"ボク"を全力で好きでいてくれる、でもどこかイタズラな笑みも見せてきて…いやいやこんなの環くんじゃなくても世のヘタレ男子の思い描く、理想のガールフレンドそのものじゃないですか(しかもヒョウモントカゲモドキ飼い)。

そして、そんなさやちゃんを鈍臭くも全身全霊で受け止めつつ、歩幅を合わせていく(それでいて年頃の男の子の青い身勝手さもある)環くん…何だあんたら、『ハチミツ』か、スピッツ『ハチミツ』の世界観か!

 

 

と話はズレましたが、この作品は、基本的に一つの話に一つの爬虫類ネタが挟まれ(例えばアオジタトカゲの習性やホライモリの生態系)、それが2人の恋の物語に帰結する構成を取っている。劇中で、さやちゃんはヒョウモントカゲモドキを、その姉の葵さんがリクガメを、妹のみどりちゃんはグリーンイグアナを、それぞれ飼っているので、その3種は特に優遇されて取り上げられています。

面白いのは、主人公のヘタレ・環くんが実際の爬虫類そのものは大の苦手というところ。家の手伝いをしなければならないので、知識自体は持っているけど生体そのものは、怖くて上手く触れられず…

でもそれって、ローティーンの頃の少年少女に似てますよね? 好きな人とかに興味津々で耳年増なんだけど、実際のその人にはどう接して良いのか判らず…(恋人同士であってもね)みたいな。それを表すかのように、環くんはさやちゃんと仲良くなるほどに爬虫類苦手を克服していく。

余談ですが、個人的にこの作品は徹底して環くんとさやちゃんの2人の恋模様を描いてたのがある意味、意表を突かれたようで面白かったです。正真正銘のイケメンハンターの葵さんと理屈っぽいくせにエロネタ全開な謎やれやれ系男子・高柳くんとの関係も良かった。まぁ、環くんがアレしちゃったシーンで、さやちゃんがヒョウモントカゲモドキしっぽで登場したのが、あまりにフェティッシュでニヤッとしてしまうのだけど。そして、それは次の作品にも繋がる。

 

2.スガワラエスコ『マドンナはガラスケースの中』

 

 

フィーチャーされている爬虫類:ヒョウモントカゲモドキフトアゴヒゲトカゲ、クランウェルツノガエルなど

専門ショップで働く32歳、童貞彼女なしどころかオフィディシズム(爬虫類性愛)という特殊なフェティズムから夜な夜な飼っているヒョウモントカゲモドキの交尾を撮影しては一人遊びに耽る青年・裕也と、爬虫類好きでどこか陰のある妖艶な12歳の美少女・ユリによるボーイ・ミーツ・ガール。

先の『つるザラ』から打って変わって、アラサー主人公の物語とあって、性的なモヤモヤがより直接的に描かれている…ものの、淡白な裕也の性格からか下品にならず、ひたすら、女子"小学生"・ユリがセクシャルに捉えられている。

この作品は、「爬虫類好き」や「爬虫類 漫画」とかで検索しても検索エンジンで上位にヒットするので、その手の人には割に有名なのかも?

 

基本的にラブコメ(どちらかというと青年漫画的なエロスと自意識、煩悶の物語)なものの、こちらは主人公たる裕也が専門ショップ店員で、ユリがその常連(買わないけど)客というキャラのポジショニングから、爬虫類に向き合う上で役立つ実践的な知識がより紹介されています。

 

物語としては、ペットとして、また性的対象として愛を捧げる飼いヒョウモントカゲモドキと同名の女の子に出会うも、その女の子(ユリ)が訳ありのようで、足りない頭を使いながら何とかして彼女を(性的欲求も込みで)支えたいとモヤモヤする…言ってしまえば、非モテ系ストーリーの王道とも言えるような展開。ごく個人的に正直に言えば、こういうタイプの作風には"共感"はあまりしないタイプなのですが(ユリにめちゃくちゃ翻弄されながらも、見透かされたことからの焦りと怒りが混濁して、「オナニーしてぇ…」と漏らしたシーンなんて、特にキーポイントとなる場面だと思うものの、今一歩のところでシンパシーに到達は…)とにかく、好感を持つのが、ヒョウモントカゲモドキへの偏愛描写。

それは物語の中での裕也もそうだし、数話毎に挿入されるスガワラさん自身の飼育録も。ヒョウモントカゲモドキを深く観察して、愛情をたくさん注いでることが伝わります。ウェットシェルターに頭から入って、あのぷりんぷりんな尻尾を無防備に出してる姿とか…ヒョウモントカゲモドキラバーしか描けない。。

 

マドンナはガラスケースの中(2) (リュエルコミックス)

マドンナはガラスケースの中(2) (リュエルコミックス)

 

 

で、それは実は裕也とユリの関係性をも指し示しているのではないか?と思えたり。スガワラさんの描くヒョウモントカゲモドキは、シェルターに入っていたりケージの中にいる存在というのが、とても強調されているように感じられます。つまり境界の内。タイトル通りと言うか。妖艶ささえも感じられる愛嬌を振りまいているのに、自由気ままにシェルターに入ってしまう。あるいは、ケースの中で完結しようとする。しかもそのシェルターやケース…境界となる"場"は自分が作ったのか、彼・彼女(・ヒョウモントカゲモドキ)が作り出したのか、分からなくなくなってしまっている。もしかして共犯関係なのかもしれない。

裕也もユリも、その"ガラスケース"に出たり入ったりを乗り越えたところで、初めて触れ合えている。実際のところどうなのか分かりませんが、印象的なヒョウモントカゲモドキの描写から、そのようなメタファーのようなものが感じられるのです。

そして、挿絵として挿入されるヒョウモントカゲモドキしっぽのユリ、『つるザラ』と言い、これは猫耳などの系譜のミュータント、新しい"萌え"の形なのか!?

 

余談ですが、個人的には作中で即売会が描かれたのがとても良かったです。あの雰囲気すごーく異郷感あって好きです。そして、トムさんのモデルがイエモン・吉井さん! 確かに若い頃のフェロモンムンムンな感じとかはモロですね…笑

 

3.鯨川リョウ『秘密のレプタイルズ』

 

秘密のレプタイルズ 1 (裏少年サンデーコミックス)
 

 フィーチャーされている爬虫類:ヒョウモントカゲモドキ、ソメワケササクレヤモリ、クランウェルツノガエル、コーンスネーク、ヘルマンリクガメなど

 

うだつのあがらない25歳の広告代理店営業・入鹿が、ふと立ち寄った総合ペットショップで爬虫類偏愛(not性愛)の"ウザカワ"美女店員・長良と出会ったことから始まるボーイ・ミーツ・レプタイルズ。そしてラブコメ

 

この作品は、つい数ヶ月前に第1巻が刊行されたばかりのニューカマー的爬虫類漫画。それでいながら、最早、作者の鯨川さん自身が、長良そのものでは!?と思ってしまうほどに、作中で展開される非常に実践的な爬虫類飼育におけるアドバイス、爬虫類雑学の数々に圧巻…

物語としては、ビギナーたる主人公(≒読者)が、何らかの道を歩み始めて、その道のプロの教えを請いながら、その魅力に取り憑かれていくというジャンル漫画の王道。それでいて主人公・入鹿をはじめ出てくるキャラが爬虫類を除いても強い個性があって、単純に雑学本としても読めるクオリティ。

 

長良のパラノイックな爬虫類偏愛、哺乳類・小動物ツンツンや被害妄想的な爬虫類愛好家の描かれ方に一瞬ウッ…と思ってしまうところもあるものの(これも後にほとんど解消されるはず)、とにかくラブ爬虫類!の精神で突っ切るスピード感は凄まじい。

また、例えばギターの描写が緻密な漫画ほど素晴らしいバンド漫画とは決して言えないと感じつつもムスタングなんかがピックアップセレクターまで細かく描かれていると嬉しくなってしまうバンドマンの読者がいるように、メジャーマイナー問わず多様な爬虫類がきめ細かく描かれていると嬉しくなる愛好家の読者もいるはず…そういった需要も満たしうるだろう画力も素晴らしい。

キャラ描写に癖があるところも否めないけれど、それを踏まえても、爬虫類の魅力を伝えたい、一人でも多くの読者にとって爬虫類に触れるきっかけになれればという強い思いが滲み出ているストーリー、雑学の数々に思わず頬が緩んでしまいますね。個人的には「爬虫類飼いは多かれ少なかれ必ず『あれっ自分は爬虫類を飼ってるんだっけ?コオロギを飼ってるんだっけ?』とふと思う瞬間がある」という"あるある"をすごく自然に描いてくれたところが嬉しかったです。

 

それにしても、ヒロインたる長良が(良い意味で)『だがしかし』のほたるに似ている…マニア道に猪突猛進で突き進むエネルギッシュな三白眼の女の子、なぜこんなにも魅力的に映るのでしょうか。いや、ルックス的には川々とか静さん、凶塚とかのが好きなんですけど。何というか、漫画的リアリティとして、ああ言う風にこっちの気なんてお構いなしで突っ走るキャラは見ていて清々しいんですよね(いや『だがしかし』でもサヤ師好きなんですが)。

毎回の結構な分量が爬虫類雑学に割かれているため(褒め言葉)、キャラ見せとかそのキャラの関係性の進展とかはまだまだこれからというところですが、そこも含めてとても期待したいですね。こういう疑似学園モノ(一定の共通項を持ってキャラが同じ場に集っているものの、それぞれの専門が違うために多種多様、一長一短な個性が出る作品)好きなんですよ。もちろん、『つるザラ』や『マドンナは〜』の徹底された2者関係も大好きなんですが。

 

ここからは余談、"蛇"足。

4-1.3作品に見るヒョウモントカゲモドキの魅力

ここまで3つの作品を挙げてきましたが、冒頭の通り、パッとナウい爬虫類漫画をピックアップしたものの、そこには共通項がありました。

その一つが、いずれの作品もヒョウモントカゲモドキがメインの爬虫類として描かれているということ。『つるザラ』では彼女・さやちゃんが飼っている銀ちゃん、『マドンナは〜』では主人公・裕也が(いろんな意味で)愛を向けヒロイン・ユリが欲しがっていた"ユリ"、『〜レプタイルズ』でもヒロイン・長良による猛プッシュから主人公・入鹿が爬虫類の世界に入るきっかけとなったグングニル

個人的にはこの呼称はあまり好きではないけれど、通称レオパですね(英名のレオパード・ゲッコー略してレオパ)。

 

何がそこまで爬虫類愛好家の気を引くのでしょう。

………

………

………

超絶可愛いから(Q.E.D.)。

としても良いのですが、多様なモルフ、飼いやすさ、繁殖のし易さ(ぜひ3作品を読んでみてください、それぞれ解説されています)などがよく挙げられていますね。あとガッキーさんが飼っていることからも他のヤモリに比べると知名度は高いかな? 個人的には、あの栄養を蓄えたプッリプリのシッポ、そして何があっても縦に細い瞳孔ですね。ずっと見ていても飽きない…クールなのに無防備、キュートなのにセクシー、その両面性がすごく、すごいんです(ヒョウモントカゲモドキの魅力を前に語彙不足で大したこと言えず)。

 3作品で言えることは主人公たる"ボク"と"彼女"を結ぶ(そもそもの繋がるきっかけでもある)窓口的な動物ということですね。そして、それはビギナーを両爬という深い深い沼に引きずり込む罪深い生き物であるということです。プリティすぎんよ。

 

4-2.爬虫類でボーイ・ミーツ・ガール?

いずれの作品も、古き良き"ボーイ・ミーツ・ガール"が爬虫類をきっかけに描かれていることもまた、共通点と言えるでしょう。

しかしリアルではどうなんでしょう。

家に来たいという同業の友人は言います。「ペット飼ってるの!? え…トカゲ?ヘビ!?あ、いいや…君がそれらを可愛いと言う、そのことは否定しない。それは正しいとか間違いとかではないしね。でも私はそれに与しない。家に行きたいけど爬虫類と対面するのは御免」、お世話になっていたネコがお好きな編集の方が言います。「ネコとか可愛い生き物にすれば良いのに。でも好きなものは仕方ないよね」…

こういったことは全く珍しくありません。別に自分は爬虫類を飼っていることに特別な意識をさほど持っていな(かった)いので、ペットの話題になればヤモリ飼ってるよーだの言うのですが、エッ…と一呼吸置かれることは意外に多くありました。

 

いやいや、これボーイ・ミーツ・ガールどころじゃないですね。別に爬虫類を介して異性との出会い云々とかそういうのではなくて、そもそも単純に他者と共感し合う機会さえまるでないという。犬や猫に比べると(というと誤解されそうですが犬も猫も大好きです。犬は飼ってましたしね)。ニッチ趣味なんですね。

 

とは言っても僕はペットライターとかではないですから、爬虫類飼育はオルタナティヴなものであっても良いと思っています。ポップスは哺乳類ですかね。でもオルタナティヴを取るとポップセンスを捨てなければいけない訳ではないですし、爬虫類を好きになってハマったとしても哺乳類や魚類好きの人と対立するという訳でもない(熱帯魚も飼ってます)。それに犬と猫がメジャーな愛すべきペットの代表格になっていますが、時代や文化が違えばそこも変わってくるでしょうしね(逆もまた然り)。

僕は幸運なことに、周りの方々に理解してもらえていますので(「そう言えば〜」的にウチの爬虫類たちの話題を振ってくれる友人も多い)、もっと良さを啓蒙しなければというような使命感はないのですが、かと言って、同好の士と言える友人もおらずBLACK OUT!なんかのイベントも1人で行って1人で帰っている感じなので…

 今回はいろいろタイミングが重なって漫画を取り上げてみましたが、爬虫類テーマのコンテンツがもっと出てきて、長良の言うところの"食わず嫌い"な人たちを振り向かせてほしいですね。で、さやちゃんやユリ、長良にあたる存在がでてきてほしい(「昆虫軍」にはカブトムシゆかりさんがいらっしゃいますしね)。

 

それにしてもNIN「Reptile」は、サウンドはもちろん歌詞も最高ですね(こちらも言い出すと長くなるので割愛)。