ワールズエンド・サテライト

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『極黒のブリュンヒルデ』総話レビュー

 

今のところ自分が今期観ていたアニメでは『河合荘』を残して、他のアニメは最終話を迎えたので、アバウトに自分が最近観終えた順で総話レビューをしていきたいと思います。

と言う事で、先程、観終わったダークファンタジー作品『極黒のブリュンヒルデ』から。

 

個人的には初めての岡本倫作品だったのですが、切迫した緊張状態とそれをほぐすような特徴的なギャグが挿入されるその緩急のセンスがなかなか心地よく、物語としてもテンポ良く映り、それなりにシリアスな作風ながら神妙になりすぎることなく観られました。

ただし、特に後半…OPが代わったあたりから、原作未読かつ初岡本倫作品の自分が観ても、これは「巻き」と言うか、かなり猛ダッシュで駆け抜けているように思われて、1クールでなく2クールでみっちり世界観を余すことなく伝えてくれれば良かったなと思うところもあります。

 

あまりこういった作風のアニメは見慣れていないのもあり、特に後半は自分の理解力不足で把握できなかったあれこれがあり今も結構な物事に頭の中で疑問符が浮かんでいる状態なので、今回はレビューといったたいそうなものでなく、感想です。

「極黒のブリュンヒルデ」Blu-ray BOX I

「極黒のブリュンヒルデ」Blu-ray BOX I

 

 

 

自分は岡本倫作品は名作と名高い『エルフェンリート』を観たあるいは漫画で読んだことがなく、よく鬱アニメだとかグロ(い描写が比較的多くある)アニメとして紹介されているということ、ダビさんの本棚に全巻あったことから、今作も恐らく、そういった路線なのではないかと期待して観始めました。

エルフェンリート』も機会があれば、かなり観たいと思っていて、今作が終盤に差し掛かった時にニコニコ生放送において、一挙配信をしていたのをタイムシフトで取っておいたのですが、なかなか忙しく観られないまま視聴期限が切れてしまいました…

 

それはさておき、今期アニソンランキング5の記事でも書きましたが、まずOPを観て、Voのないアニソンというのに驚いたのに加えて、モノクロの壊滅していく街の中で血を流しながら静止しているヒロインたちがリバースで色がついていく描写などからなかなかダークな世界観の予感に期待していました。

なお、後半からはそのOPが、日本では最近までメジャーフィールドで幅広く評価される機会がそれほど多くなかったエレクトロニコアの国内における注目株と言えるFear, and Loathing in Las Vegasによる「Virtue and Vice」に代わり、映像面でも一新されました。僕がニコニコ動画で観ていた限りでは、あまり芳しくない評価のコメントが多かったように見受けられましたが、Fear, and Loathing in Las Vegasの前評判はよく耳にしていたものの実際に曲は聴いておらず初めて彼らの曲を聴く機会となった自分としては、サウンドは(たしかにツボという訳ではないですが)、なかなか面白いところがあって、悪くはないのではないか…と思っていました。

Discord Recordsあたりから脈々とあるポストハードコア、スクリーモ系の激しく重いギターサウンド(昔聴いてたFuneral For A Friendなどを思い出した)と執拗なまでにギャンギャン鳴るシンセサウンドがバトルしているようでサウンドは結構良かったです。何か全体的にPanteraやHelmetといったメタルにかなり近いオルタナ・ハードコアの暴虐的なバンドアンサンブルにAttack Attack!みたいなシンセを混ぜた感じと言うか。途中で歌メロに入るChoがオートチューンを露骨に使ってるのを前面に押し出ていて、面白みがあるとは思う…のですが、いかんせん、スクリーモ系のシャウトやデスヴォイスは中学の頃に割と聴いてからは、それほど耳馴染みの良いものでは個人的になくなっていたので、そこは残念でしたが…。。それからスクリーム系をそれほど聴かなくなった耳では、マキシマムザホルモン(漫画・アニメ的には『アカギ』のEDなどで有名ですね)のダイスケはんのそれに近く聴こえました。。このシャウトメインのVoだけみれば、たしかにちょっと作風とは合っていなかったかも…とも思いはします。

 

 

まあOPの話はそこらへんに置いといて、自分はヤングジャンプ誌掲載の漫画はダビさんに借りた『干物妹!うまるちゃん』しか読んだことがなかったのですが、全体的な物語構成やキャラクタの配置は、ジャンプ誌的なものを感じました。

主人公が静かでそれほど力(まあ有り体に言えば戦闘力)がないながら頭脳明晰で明確な「敵」(=「研究所」)がおり、「敵」の全貌は不明のまま、様々な刺客が送られて来て(あるいは時にこちらから潜入して対峙して)、異能力者の仲間(=「魔法使い」)を守るため、力を合わせて奮闘する。

最近のジャンプ誌の傾向は分かっていませんが、少なくともアニメを俯瞰的に観れば、ジャンプ誌の少年漫画的なプロットに沿っているように思えました。

 

そこで、「やっぱり友情や戦略だ!いつかはあいつらを倒してやる!」みたいなノリになればちょっと…と辟易するところもあるのですが、今作は、主人公である村上くんがクールな時と熱血な時の落差が激しく、普段はかなりクールで、ちょっと変態ちっく寧子を盲信しているのに加え、ダークファンタジーということで、(恐らく伝え聞くところの『エルフェンリート』には及ばないだろうとは思いますが)凄惨な描写もそこそこあって緊迫感を煽っている…のに、さらに加えて、にも関わらず、恐らくは岡本さん特有であるだろう妙にシリアスすぎたりセンチメンタルに沈みそうになったらエロとかぶっ飛んだ方向のネタがテンポよく挟まれるので、熱血にもクールにもなり過ぎることなく快適な心地で観られました。

 


TVアニメ「極黒のブリュンヒルデ」プロモーション映像 - YouTube

 

ダビさんに、このシリアスと独特なネタの同居は岡本倫作品の特徴であるというようなことをきいたのですが、それが恐らくは今作においても如実に描写されていたのでしょう。実際、例えば『selector infected WIXOSS』がかなりシリアスによっているのに対して、こちらは、シリアスにはなりはすれど、そこにすかさずネタが挟まってくるので、緊迫した心がほぐれてつい笑ってしまう。そのバランスが秀逸でした。

 

例えば、奈波編(と言っても数話で終わってしまって残念でしたが…)でそれは顕著で、自分の魔法使いとしての能力に悩みながらーアイデンティティ不安に晒される奈波にこちらもシンパシーを感じながらー世間知らずな奈波の行動がいちいちオバカキュートに映ったりしますし、その奈波がそれまで誰とも心を通わせることができなかったなか、天文部員の魔法使いたちと初めて「友達」になれた…と吐露した後すぐ死んでしまうところでも、かなりシリアスになってしまうところが、奈波の記憶改竄の能力を使って村上くん以外の記憶から消えた時に、カズミが「うわっきっしょ何やこれ!」と無粋にツッコミを入れることで、過度にシリアスになり過ぎない。

こういったバランスが全編通して保たれていて、ただ緊張状態に置かれたダークなバトルものではなく、クスッときて思わず現実に戻される様は素晴らしいと思いました。

 

って言うか、大体、カズミのキャラが個人的にめちゃくちゃツボで。

これは関西人だと思う人も多いと思いますが、アニメやドラマなどの関西弁キャラってどこか中途半端かそんなんおばちゃんでも言わへんでみたいなコッテコテの関西弁を使って、なおかつ、残念キャラに配されることが多く、違和感を覚えることって結構あると思うんです。

まあこれについては、関西弁と一言に言ってもそれぞれの府県でもイントネーションや言い回しが違って、その府県内でも地域によって違うところを「関西弁」と一括されたキャラとして描かれるがゆえの関西弁キャラの宿命とも思われるのですが…(そういう意味では先期の『いなり、こんこん、恋いろは。』はかなり自然な京言葉で全然違和感なかったのですが)。あとは基本、関西弁キャラって面白いこと言うちょっとヌケてるヤツって感じがあると思うんですけど、恐らくは標準語で同じネタを言ったらウケるだろうけれど、中途半端かコッテコテの関西弁で言うから逆に寒くなったりとか…

 

まぁ色々すると思うんですが、カズミはそういう点では違和感がなかったです。

むしろ、自分でも意識的に我が強いキャラとして自覚的に振り切ってる分、こっちも安心できるし、何より口にするネタが関西弁だからこそ面白い場面が多い。

特に、村上くんの家で2人きりになって迫ってくるシーンでの「まぁまぁそう言わんと(胸を)揉んでみーや!」とか超下世話な台詞とか秋葉原に行った時の「ここにいんの皆キモオタか!?童貞か!?」みたいなお下品な言葉が合ってる。笑 あと「性器代」とか訳のわからんもんを要求してきたりだとか。笑

いや別に関西人・関西弁=下世話・下品って言ってるのでは全くなくて(自分も生粋の府民かつ超関西弁だし)、そういったネタをネイティブに近い発音で素で言われるとマッチしてるんですよね。

 

まあそんな普段は割とお下劣っぽい一面もあるキャラながら魔法使いとしての能力は、戦闘に特化したものでなく、PCを駆使したハッキングであることとか見た目に似合わずインテリな感じが良い。登場当初は打算的な面もかなり出てたものの、天文部員の一員として仲間と共に過ごすことで、かなり柔和な性格に変化したことや割と巨乳フェチな村上くんにしたたかに想いをよせる様はかなりキュートに映ります。

かなりマイペースなんだけど、芯のところは非常に女性的と言うか。まあキャラクタ類型的に言えば、いわゆる耳年増な処女ビッチと呼ばれるタイプだと思われるんですが、そのギャップが良いですね(割と自分で書いていて気持ち悪い文)。

 

って言うか、村上くん、今思い返せば、巨乳フェチなのもあると思うけれど、基本は異性的な意味では寧子のこと以外あんまり頭にないだろうあまり、カズミに対して、お前の胸に払う金などないと言い放ったり事に付けて貧乳呼ばわりしたりしてて割と酷いな…。。苦笑

 

極黒のブリュンヒルデ カンバッジ カズミ = シュリーレンツァウアー A

極黒のブリュンヒルデ カンバッジ カズミ = シュリーレンツァウアー A

 

 

ストーリーに話を戻すと、魔法使いたちが常に鎮死剤を飲まないと生きられないという限界状態に身を置きつつも、どうにか仲間を増やし、迫り来る刺客(一応、刺客ではあれど、中には昔、研究所にいた頃は知り合いや友達だった魔法使いもいて心苦しいところだったと思いますが…)と相対していく…かなり辛い闘いを強いられながらも、たまに挟まれる温泉パートなどで息抜きしつつ、奈波が死ぬあたりまでは丁寧に作品内世界を描いていたと思います。

が、やはり奈波が死んでから…冒頭に書いた通り、恐らくはOPが代わったあたりからでしょうが、いきなりほとんど説明が一言二言あるいは全くなしのまま物語がラストに向けて急展開し、ヴァルキュリアと対峙した時には、かなり「なぜこれはこういう状況になっているか」把握するのに時間がかかる作品になって、明らかにそれまでと比べて尺が足りないがゆえに、飛び飛びで無理くり進行していったように思います。

 

初菜が出て来て以降はキャラがいきなり増え出して、それぞれのキャラの思惑が深く触れられることなく、ちょっと視聴者置いてけぼり感のあるままどんどんストーリーが進んで、最後まで状況説明は本当に短い言葉だけしか語られないままで、前半〜中盤まで結構良かったのに残念でした。

特にラスト2話は、いわゆる超展開とさえ言えるようなぶっ飛びの展開ばかりで、思わず「何じゃこれ…」とツッコんでしまったのは事実。

最終話においては、九の妹と小鳥との関係性がいきなり明かされるわ、村上くんは奔走してどこ行ったと思ったら飛び蹴りで現れるわ、カズミはいきなり下半身八つ裂きにされる(にも関わらず、かなり村上くんと喋れる)わ、寧子がいきなり覚醒するわ、と思ってたら佳奈まで覚醒するわ、ヴァルキュリアが九に対して(寧子に対しても?)異様に執着してるわ、その割に寧子とヴァルキュリアとの空中バトルはほんの数秒で終わるわ、バトルが終わったら村上のことさえ忘れてるわで原作既読の視聴者以外は、え…!?と言うような感じだったのではないでしょうか(自分の理解不足?)。。

 

しかもそのまま流れ込んだEDでは佳奈はまた車いすに戻っているし、カズミも生きてるし、どういうことなの…(カズミは初菜が治癒したのかな…??でも初菜ってこの時点で生きてたっけ…??)。。

どうしても最終盤はめちゃくちゃ「巻き巻き」でやった感があります。個人的には、何度も書いたシリアスとネタのテンポや世界観も丁寧に描いてくれたので、ここまで駆け足でやるくらいなら、2クールでゆとりをもって締め括ってほしかったなと思ったり。

極黒のブリュンヒルデ 1 (ヤングジャンプコミックス)

極黒のブリュンヒルデ 1 (ヤングジャンプコミックス)

 

 

ラストは残念ではありましたが、まあ、とは言え、作品の世界観や岡本倫作品特有のセンスは感じられたと思うので、原作や『エルフェンリート』は読んでみたいですね…と言ったところで締めにします。。