ワールズエンド・サテライト

アニメ・漫画の感想・考察,アニソンレヴューのページです。京都の院生2人で編集・更新しています。

『N・H・Kにようこそ!』総話レビュー

 

昨日あるきっかけでふと思い立って、今まで原作と漫画版は読んでいたけれど観ていなかった『NHKにようこそ!』のアニメ版を若干、仕事やら研究からの現実逃避気味に一気観しました。プロフィールの通り、自分は鬱展開・ハートフルボッコ・不条理的なアニメが好きなんですが、この作品はよく鬱アニメと紹介されているのをみていたことも些細なきっかけですかね。

ので、備忘録的にレビューします。

 

観終わって思ったのは、アニメ版は原作と漫画版の良いとこどり…というかポジティヴなところを抽出して(時には改変して)再構築した感じですね。

ただその分、原作や漫画にある、ある種のちょっと古典的なサブカルチャー感とか、特に漫画版で顕著なアングラ感が大きく削られているのはちょっと残念だったなぁ。。まあ、色々放送倫理的に引っかかるところもあるだろうから、それは仕方ないんですが。そこらへん(主にドラッグ、向精神薬、精神あたり)もゆるく検証しながら、レビューしていきたいと思います。

 

 

まず観る前にスタッフを拝見して、ビックリ!!

なんと、劇中音楽を手がけているのは、80'sテクノポップブームの雄たるバンドの一つ、ハルメンズで活躍してて今ではロック文筆家としても独特なポジションにおられるサエキけんぞうさん率いるパール兄弟!!

しかもEDを手がけるのは、80'sからの日本のサブカルの代表格とさえ言える大槻ケンヂオーケン)さん!!

もうこの音楽スタッフを見るだけで、何と言うか80's的な古き良きサブカルチャーファンホイホイといったところですね。笑

 

そもそも原作者の滝本竜彦さん自体、オーケンの名著『グミ・チョコレート・パイン』の解説を手がけたり、オーケンからの多大なる影響を公言されていたので、実現できたキャスティングなんじゃないでしょうか。

 

あとOPが後期渋谷系の代表格バンドの一つ、ROUND TABALE(花澤香菜さんのアルバムにも楽曲提供されてますね)。

それにアニメ内アニメ『プルリン』のテーマ曲(山崎の部屋から大音量でかかってくる電波アニソン、視聴者もイライラする。苦笑)の作曲はex-Pizzicato Five高浪敬太郎さん!!言うまでもなく、渋谷系を代表する名バンドの一員でしたね(個人的にはPizzicatoでは小西さん作曲も良かったけど、高浪さん曲もかなり好きです)。

このように音楽陣がなかなかにアツい。

 

 

はてさて、アニメ本編の方はまず序盤から大きく原作・漫画版と違う点があります。

第1話で主人公、佐藤くんが「悪の秘密結社NHK」の存在を家電品たちに諭されて気付くシーン。

原作・漫画版ではこのシーン、佐藤くんがサイケ系の脱法ドラッグを摂取してトリップした時にみた幻覚なんですよね。しかし、ここは放送的にマズいからか、半覚半醒状態でみた白昼夢のように改変されています。

 

続く、成人向けゲームを制作することになった佐藤くんと山崎が秋葉原に資料収集に行った際に漫画版では尻込みする佐藤くんに対して、山崎はエフェドリン覚せい剤の原料?ともなっているアッパー系の薬物)とカフェイン(カフェインがドラッグと言うと違和感もある方も多いかと思われますが、合法的な処方箋必要でもらえる薬はダウナーが圧倒的多数を占める日本においては、数少ないアッパーに効くドラッグと言えます。しかも市販されているし。実際、400mg以上飲むとアッパーにキマる…らしいです。僕は試してもそれほど効果はなかったけれど)を口につっこむ描写もありますが、そこもカット。

 

4年ぶりに高校時代の憧れの先輩(今は向精神薬ジャンキーで空虚で情緒不安定)に会ってお茶した時の先輩の台詞も漫画版では

これはレキソタン。どんな不安も吹き飛ぶからポケットにいつも常備しておくべきよ。こっちは睡眠薬ハルシオン…青くて小さくて可愛いでしょ? で、これが合法覚醒剤リタリン!!ナルコレプシーのフリしたら案外簡単に処方されたよ

佐藤君にも少し分けてあげる 元気になれるよ

NHKにようこそ!』 第1巻

原作では

「なら、良いものあげるよ」

先輩は、小さなバッグからピルケースなどを取り出して、何やら小粒の錠剤を俺に手渡した。

「これ、リタリン

「なんすかそれ?」

抗鬱剤覚醒剤の親戚みたいなクスリだからすっごい効くよ。これでいつでも元気バリバリ!」

文庫版『NHKにようこそ』p.148

 となっていて、すこし得意げに向精神薬の紹介を始めていますが、これもアニメ版では「元気ないね…薬でもあげようか。向精神薬よ、元気がでるわ。眠れないなら睡眠薬ね。うつな気分の時は抗鬱剤…こっちは精神安定剤…」と改変されています。

 

一応、順番に解説してみると、レキソタンはスイスのロシュ社が開発したベンゾジアゼピン系(BZD系)の中時間作用型の抗不安薬で、その開発の前後に、ロヒプノールという海外ではレクリエーション用やデートドラッグとして悪用され米国などでは麻薬扱いで所持が禁止されている強力な睡眠薬が(日本では処方してもらえば合法です)、リボトリールという抗てんかん薬としても使われるBZD系としては国内で処方される薬では最も強力な抗不安薬があります。

レキソタンは日本国内においては国内ブランドの名薬である短期作用型のデパスと人気トップを二分する抗不安薬です。

 

ハルシオン向精神薬の知識がほとんどない方でも知っていると思われる悪名高き超ショート型の睡眠薬。普通に飲んでも健忘(飲んでから寝るまでの記憶が消える)が起きたり、飲んで寝ずにいたら半分酩酊状態のようなって活動的になったり、寝た後に突然起き出して記憶のないまま奇行に走ったりする、アルコールと併用すればさらにそういった症状がキツくなる…などなどの欠点を針小棒大にメディアが報道したせいで、日本では特に忌み嫌われやすく処方してもらうのが困難な睡眠導入剤です。

しかし、実際のところ、それはメディアの過剰な演出で、実際にはレクリエーション目的ではロヒプノールの方が海外ではよく使われており、日本国内でもレクリエーション目的では同じ超ショート型睡眠薬マイスリーロヒプノールがよく使われている(しかもこちらの方が健忘が起りやすい人や活動的になったりする人も…特にマイスリーはOD(オーバードーズ。処方された規定量を超えて過剰摂取すること)するとサイケ気味になる人もいるようです)ようで、今では有識者の中では不必要に叩かれすぎた薬と言われているようです。

僕は医療関係者でもなければ、薬剤師でもないので、真偽の責任は負いかねますますが。。ただレクリエーション目的やODなどのために向精神薬を使うことは、薬物乱用になります

 

リタリンは作中の台詞にもある通り、まあ合法覚醒剤とか覚醒剤の親戚的な中枢神経刺激剤です。鶴見済さんの『人格改造マニュアル』では「覚醒剤とカフェインの中間」と紹介されています。

が、現代の日本では精神科・心療内科でも滅多なことでは出さない薬で、入手するのはハルシオンより困難でしょう。

と言うのも、一昔前はうつ病に効果があるとされていたのですが、アッパーにキマりすぎて衝動が増したり、耐性のつきやすさや依存性などなどの問題でうつ病患者には未承認になり、今ではナルコレプシーADHD(18歳以下のみ)患者にしか処方されない薬となりました。その上、お医者さん側もナルコレプシーを訴える患者にもまずリタリンは出さないと決めている方が多いようで、実質的に入手は(『NHK〜』原作・漫画版当時より)非常に困難と言える薬です。

しかしダウナーな薬が圧倒的主流の日本において数少ない合法のアッパーな向精神薬ということで、裏ルートで取引されているという話もきいたことがあります(僕は服用したことはありません…苦笑)。

 

アニメ版では、それらが恐らく見た目的に抗不安薬セルシン(?)のようなものと水色のシートにカプセルという恐らく実在しないだろう薬物になっています(シートだけみれば気分安定薬デパケンRっぽい?)。

 

ちなみに、先輩は佐藤くんにこれらの薬をあげようとしていますが、現実では「麻薬及び向精神薬取締法」によって、譲渡は法律的に禁止されています

 

またこの先輩と邂逅するシーンでは、漫画版では先輩は手首にリストカット痕が残っていますが、それも削除。また、先輩との過去を思い出すシーンで、原作版では先輩は鶴見済さんの名著『完全自殺マニュアル』を部室で愛読しているという描写がありますが、それも削除。やはりここら辺はデリケートな問題なんでしょう…

 

逆に追加されたのは、先輩が職場で理不尽な叱責をされて城ヶ崎に電話してもうまく噛み合わず、頓服的にピルケースから取り出す薬。

これは恐らく形状からみて、抗不安薬ソラナックスレキソタン、(当時では処方箋なしで買えた?市販薬の)アタラックスPでしょう。もう一つは不明です。

その後、先輩は佐藤くんの家に乱入気味にきて、酒をあおりますが、漫画版ではこの際、既に先輩はODしていますが、これもカット。やはりマズいんでしょう(酒を飲んでの向精神薬摂取はいわゆる"ラリった"状態になりやすく、ほとんどの向精神薬が酒との併用がNGとなっている)。

 

先輩との自殺オフ会では、自殺方法が練炭による一酸化炭素中毒死であったのが断崖からの投身自殺に変更。ここでの改変はちょっとよく分かりません。自殺(まあ未遂ですが)を描くのはアリなのに、その方法の違いがあるのははたして…??個人的には、練炭自殺の方が場に合ってるかなぁと思いました(後の城ヶ崎の説得シーンもちょっと説教くさく陳腐に思えた)。

ちなみに漫画版で先輩が練炭の煙に包まれる中、手にしていたのは恐らく三環系(たまに四環系とされることもある)抗鬱剤アモキサンでしょう。リタリンの処方が非常に困難な今、主流の処方薬の抗鬱剤としてはアッパーに、かつ比較的即効性があって効く薬の代表格ですが、なぜ自殺の最中にダウナー系(抗不安薬睡眠薬)を飲まずに、アモキサンを飲もうとしているのかはちょっと謎です。意気揚々と死んでいきたかったのか?飲めれば何でも良かったのか?苦笑

 

さっき城ヶ崎の説得シーンが説教くさく陳腐に思えたと書きましたが、アニメ版では、自殺未遂を終えて、本土に帰った時にオフ会に参加したそれぞれのキャラの親が出て来たり、温泉のシーンでは過去に自殺未遂をしたことがあることを匂わせる清掃係のおじいさんの説教のシーンなどがあり、これは素敵改変と思いました。

 

あとの展開は小林のマルチ商法編までは漫画踏襲で、それ以降は原作踏襲のストーリー構成となっており、単純に物語としての綺麗さ、終わり方のささやかな希望の見せ方という点では、やはり、いいとこ取りだな、と。

 

しかし、例えば、漫画版における旅館で佐藤くんが脱法ドラッグをキメてバッドトリップして、発狂してしまうシーンだとか、岬ちゃんが城ヶ崎(漫画版ではスクールカウンセラーを兼務している精神科医という設定)に演技性人格障害と診断されるシーンだとか、先輩と城ヶ崎が結婚しても全く夫婦円満になっておらず家庭崩壊寸前のシーンとか色々省かれているところなど挙げれば結構ありますが、そういうカットされた部分は多く、そういう意味でアングラ感が薄れているのが残念ですね…

また原作においても佐藤くんはアッパー、ダウナー、サイケデリックス(幻覚剤)の内、合法の幻覚剤が好きでAMTや5-MeO-DIPTを愛用している設定がある(原作、p.216〜217)けれど、これもカット。ちなみにAMTも5-MeO-DIPTも05年から違法麻薬扱いになり処罰の対象になっています

 

もちろんアニメだけでも引きこもり、対人恐怖、ネットゲーム依存症などの現実の問題を扱いながら、現代の個人個人の脆弱さ、どうにもならない負のスパイラルをかなりストレートに(特に漫画版は救い無く)描いたもので素晴らしいのですが、こういった精神疾患・薬物の問題も実はこの作品を印象づける大きなテーマの一つと思っているので、そこは残念でした。

 

さて、それぞれのキャラを見てみましょう。

佐藤くん:彼は3メディアにおいて大体、行動も性格もほとんど同じです。根は他人思いの優しい性格なんだけど、無意識の内に自意識が高い。それゆえコミュニケーションに齟齬が生まれる。結果、劣等感に苛まれて引きこもる。直情的で目先の出来事に子どものように振舞わされる。それで行動が一貫しておらず、「自分」がないように映る。ラストの原作・アニメと漫画の大きな違いはやはり、前者2つはフリーターに改善したという点ですが、漫画は成り行きとはいえ、ゲームクリエーターの道に遅いスタートながら進むことになって、最後だけみれば、漫画版の方が救いがあるかな…まあ漫画の方が言動がかなりクズ人間ですが。苦笑

そう言えば、この作品、どのメディアにおいても佐藤くんの「NHK=日本・引きこもり・協会」という妄想から始まるのけど、割と目先のことばかり考えてるから、パラノイア的なものはあまり感じないな…作中でもうっすら描かれている通り、本当はありもしないとわかっている陰謀論をでっちあげてそこに現実逃避している自分が許せない(けれど何か内的な要因で行動しようとも思わない…以下無限ループ)という感もあるからかも。

 

岬ちゃん:3メディアどれも、行動も性格も違います。強いていうならば、原作・アニメは結構近く、漫画版はぶっ飛んでいますね。どのメディアにおいてもヤンデレ気質で、これは、ヤンデレ愛好者においてのバイブル、インフォレストのムック『ヤンデレ大全』においてもノミネートされています(『ヤンデレ大全』では漫画版の岬ちゃんが選出)。ただし、原作・アニメは言葉が下手ながらも過去のトラウマを抱えた上で、半ば共依存的に佐藤くんを求めるのですが、そこにはどこか最終的には温かさがあります。またアニメでは自殺未遂(風呂場でのリストカット)を起こします。その後のラストまでの言動から多少、構ってちゃんとも言えなくもないですが、ボーダーラインとは言えないでしょう。悲痛な過去があったから…ただこの見解は下手すれば宇野常寛さん的なレイプファンタジー的な目線でも見れるかも知れません。

対して、漫画版は佐藤くん同様、なかなかのダメ人間です。こちらでは明確に演技性人格障害と診断されます。構ってちゃんっぽさは漫画の方が上ですね。ただラストの心の遷移は、原作・アニメの方が良いですね。まあヤンデレ研究者としては、なかなか面白いキャラです。いわゆるヤンデレ四天王は大体ブッ飛んでるヤツばかりでそれはそれで面白いけれど、現実味のあるヤンデレという意味では、岬ちゃんはちょっと他とは頭一つ抜けたリアルにいそうなヤンデレで良いです。

ヤンデレ大全 (INFOREST MOOK Animeted Angels MANIA)

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山崎:彼も3メディアにおいて、行動と性格どちらもあまりブレない。そして、心が弱いキャラが溢れるこの作品中、最も精神的に強い人物でしょう。実際に、実家での跡継ぎの人生を一度は嫌悪し、自分の人生は自分で決めると仕送りも無しに東京に出て来て、バイトして学費を稼いで専門学校に通っている。まあその高慢で高すぎるプライドのせいで学校にはあまり馴染めず、周囲を小馬鹿にする性格から成人向け同人ゲームの売り上げも良くなかったですが…で、そうしたらそうしたで実家にちゃんと帰って、跡継ぎをする。ラストでは実家での見合いの結果、結婚するかもなんて感じもあって。夢は破れたけれど、誰よりも情熱的にクリエイターを夢見て、挫折を痛い程味わった分、すごく良いお父さんになるでしょう。漫画版では、佐藤くんと一緒でレクリエーション的に薬を使う場面もありますが、何だかんだで、この作品の良心かなぁ。

「ドラマチックな死は僕等には似合いません」というのは漫画とアニメの、「TVドラマの中には真実がありますからね。起承転結があり感情の爆発がありますからね。なのに、僕等の生活はいつまでもいつまでも、薄らぼんやりな不安に満たされている」というのは原作とアニメの名言。

 

先輩:彼女は3メディアで、行動と性格は似てますが、重症度が違います。そもそも原作では他メディアよりも登場回数がかなり少ないですしね。まあどれも向精神薬ジャンキーなんですが。苦笑 彼女は漫画版とアニメでは、かなり不安定さが違います。漫画版は本当にボーダーラインっぽくて、他者の一挙一動にかなり精神がもっていかれて、尊敬・敬愛したと思えばこき下ろしたりとかなり厄介で自分を大切にしようという気がほとんどない(根底に空虚さと自殺願望がある)。自暴自棄な性格ですね。城ヶ崎と結婚してからも夫婦がうまくいかず家庭崩壊寸前で包丁で暴れるなど、かなり情緒不安定です。どのメディアにおいても、佐藤くんに不倫関係を持ちかけたりと心の空虚さには正直ですが、アニメにおいては、ラストで城ヶ崎と夫婦円満になりお母さんになるということで、この時の佐藤くんの喪失感は半端無かったと思います。

また大きな変更点として、原作では先輩は佐藤くんと高校卒業時に一回寝てるんですね(なので、佐藤くんは童貞ではない)。しかしアニメや漫画においては、寝ていない設定になっています。この改変は何なんだろう…??

 

小林:このキャラはたしか原作には出てこなかったと思います。漫画版を先に読んでたんですが、ある意味では、小林は他のキャラとは違った救われなさで、キツかったです。他のキャラは、根本的に人間的な欠陥(もちろん、その欠陥があるからこそ、彼らの人間的魅力も増すので、悪い意味ではないです)があって弱いのに対して、小林は元々はそれほど人間的欠陥はない。空気読めないところはあったけど。マルチ商法に手を染めてしまってはいるものの、元は山崎とは違うベクトルで強かだったハズです。

そもそも自分の生活費と、プラス、引きこもりの兄貴も養うために必死に無理なバイトして、それでも報われずマルチ商法に…と。彼女はその結果、先輩とは違う空虚さがあって、根は善人なのに社会の不条理に飲まれて、ヒールを演じざるを得ない自嘲感もあったように思えます。なので、あまり小林のことを悪く思えないんですよね。ある面では、彼女の存在はかなりリアルだと思います。出てくるキャラ全員の根がダメクズ人間ばかりだったら、それはそれで現実感なさすぎるだろうし…

NHKにようこそ! (角川文庫)

NHKにようこそ! (角川文庫)

 

 

まあ、と言う訳でそろそろ終わりですが、冒頭で言った感想通りですね。多少説教くさくカットや改変も多いけれど、原作と漫画のポジティブなところの良いとこどりでスマートな作品だと思います。

 

個人的にはそれほど鬱アニメとも思いませんでしたね(この鬱アニメ云々についてはかなり自分の趣味なので、余裕あれば、また別記事でじっくり書きたいです。あとヤンデレについてはシリーズ化したいです)。総合的にみたら漫画が一番鬱作品かな…

現代の問題、特に暗い不安な社会問題、個人の問題を扱ったアニメは多いですが、今作もまたそれぞれの心の弱さを時にコミカルに時にシリアスに描いたなかなかの作品だと思いました。

 

余談ですが、多くの方がこの作品だと岬ちゃんが好きというと思いますが、僕は断然、先輩が好きです。

薬物ジャンキーで空虚で自分を大切にできない、普段は理知的で有能(しかも原作とアニメだと早稲田卒という高学歴設定でもある)だけど、その実、感情的で非常に不安定。

厄介極まりないキャラだけど、弱さ(彼女の「NHK=日本・ひ弱・協会」)も引っくるめて、かなり人間的な魅力があって、自暴自棄な破天荒ながらも芯の女性的な在り方に惹かれます。まあ現実ではこういったタイプの(語弊を恐れずいえば、ボーダーライン的な観点でのメンヘラの気のある)女性とはなぜか僕は特別に相性が良かったというような経験はそれほどはないんですが…苦笑

 

 

PS:漫画版を再読しましたが、個人的には漫画の方が良いですね。

上にも書いてる通り、漫画版は出てくるキャラのほとんどがクズ人間化しているので、物語の主軸が「ブレまくる」。基本的に物語の主軸がブレるのは、一貫性がなくて良くないと思うのですが(もちろん、それでアニメでは切り捨てられた後半部分は結構グダグダにも映るのですが)、そのせいでむしろ1人1人のキャラが人間味があるように思えました。

漫画版はかなりギャグ調になっていますが、キャラのダメさ加減にストッパーがかかっていない分、人間関係の齟齬、自己イメージと現実の乖離、自己実現の困難、そして何より、クズ人間の有言不実行と葛藤・不安が濃い味で出ています

原作やアニメよりもどのキャラもある種、病的と言えますし、利己的なところが目立つためにその利己がぶつかっていく鈍いものが描かれています。

特に佐藤くん以外のキャラがアニメでは割と皆、善人ですが、漫画だとエゴイスティックなところもバンバン出てくるし、それでキャラがめちゃくちゃな分、ストーリーが勝手に進んで破綻してる感じもあるけれど、ダメな自分と不条理な社会との対峙がデフォルメされてでもサイコティックに映っているように思います。うーん、やはりアニメ的な感じで、一応は美談という感じで終わるよりも、ダメダメなエゴのぶつけ合いの終着点、それを見返しての自分なりの青春という感じで描写されている方が、物語の後味が悪くなってしまっても、個人的には良いと思います。

 

と言うか、漫画版の岬ちゃんは上に書いた以上に、他メディアに比べるとキャラがかなり違う…病的で徹底的に執着される怖さみたいなのを感じます(その点、先輩も相当なダメキャラにはなっているものの、上に書いたように空虚さに対してストレートな分、まだ怖さがないような。とは言え、度々、精神薬ODしたり、城ヶ崎を尻目にラリった目で出会い系サイトを徘徊する姿はゾッとするものがあるけれど)。先輩に負けず劣らず、自分をあまりに低く見積もっているのだけど、実のところ、先輩より社会性がない分、ラストあたりは自分自身を天秤にかけるような行動を容易くしてる感じもまた…

 

あと、先輩は1巻の4コマと2巻のカバー裏をみる限り、上で挙げた以外にもルボックスSSRIデプロメールと同成分でこちらの方が名前的には有名かも?)、プロザック(日本では未認可のSSRI)、アニメで出てきただろうセルシンなんかも服用していることが分かります。先輩は完全に薬に頼りすぎてるけど、まだ薬で自分の情動をコントロールしようとはしている…??まあ実際できていないからマシではないけど。

原作も余裕あればパラパラと読み返したいところ。

NHKにようこそ!

NHKにようこそ!

 

 

PPS:私は頑張らなかった。漫画版だけでなく若干、飛ばし飛ばしではあるけど、原作も読み返した。原作は漫画版とはまた違う良さがありますね…結果的に、アニメ版は原作と漫画版のいいとこ取りした結果、ストーリーとしては、ちょっと刺激が足りない感じに思えてくる。。音楽は良かったですが。

 

改めて読み返すと、後に派生した2メディアに比べると原作は21世紀初頭の時代を生きるかなり色々と難のある若者たちの群像劇という側面は薄く、基本的には佐藤くんと岬ちゃんのボーイ・ミーツ・ガールものとしてできてる。先輩の登場シーンなんて回想を除くと実質、佐藤くんと1回会っただけだし、それほど存在感はない。しかし、上に書いた通り、原作だけは高校時代に佐藤くんは先輩と寝たという設定になってるから、ある種の楔のようなものをも感じますが。。それにしても城ヶ崎の職業もまた3メディアで全部違うんだな…

 

何はともあれ、原作は、これでもかというほど脱法ドラッグ摂取しすぎ。笑 まだ00's初頭は規制がゆるかったのが伺えます…かね…??ことあるごとに佐藤くんも山崎も幻覚剤でトリップしてますし、漫画以上に乱用してる。原作ってライトノベルにかなり近い大衆文学的な位置だと思うんですが、角川的にこの描写の数々は大丈夫だったのかな…と(割とドラッグをただ漫然と摂取してる描写があるだけでなく、結構説明的なところもあるので)。しかし中島らもさん的なジャンキーの無頼派っぽい感じにならず、あくまでダサいニートの日常に貫徹してるところはさもありなんという感じですが。。

実際、自宅、というか下宿先に閉じこもりがちな人は法の目をかいくぐった一応は違法ではない薬物に手を出す人も割にいるので、リアリティはあるかも。でも脱法ドラッグって名前通り脱法なだけあって、その薬理作用が摂取者側もきちんと把握し切れなかったり、規定量に関する文献が少なかったりで、数分間違うと、バッドトリップになったり自分でも対処しきれなかったり穏やかじゃない方になって(漫画版のように)警察のお世話になる可能性もなきにしもあらず…とも思いますが。。まぁもちろん創作物に対して「これは真に受ける人がいるとヤバいから描写を控えるべき」なんてナンセンスなことはぬかしません。これらのことも含めて『NHKにようこそ!』でしょうし、アニメはそこのところちょっと(少なくとも精神疾患的な側面でも)放送難しいだろうけど、クリーンすぎるとはまだ多少思いますかね…

と言うより、この作品読んでるとちょっと精神疾患と薬物の関係が意図せずにしてか、遠景的に映し出されてきてるようにも思います脱法ドラッグだけでなく、先輩は合法の向精神薬だけ飲んでますが、それでも客観的にみればBZD依存あるいは中毒と呼んでも差し支えないでしょうしね。どのメディアでも治療目的だけでなく、精神科を3つ掛け持ちしてる設定だし…乱用者とも言えますね。

 

ところで、岬ちゃんは漫画版・アニメでは薬物的な要素はないですが、原作だと、実は佐藤くんに出会う前から精神科に通っていて多量の睡眠薬を持っているという設定です。

ラストの自殺未遂シーンは睡眠薬100錠ODというものでアニメとは違います。とは言え、原作当時時点での処方の睡眠薬ODでは死ねずしんどすぎる胃洗浄が待っているだけな感じもしますが。

というか、『Myself;Yourself』といい、アニメではリストカットによる自殺未遂を映すのはアリで、薬物ODはダメなのかな…?リストカットだけでなく『ひぐらしのなく頃に』とかになると、包丁で自分の脳天ブッサし自殺描写すらあるのに…

また日本海が映える自殺の名所のある故郷(福井の東尋坊?)で岬ちゃんは、佐藤くんに対して、錯乱するでもなく、カッターを振り回して傷付ける描写もあります。

特にその自殺の名所のシーンにおいて顕著ですが、原作だと先輩がほとんど出てこない分、岬ちゃんは演技性人格障害の気はあまりなく、かなりボーダーラインよりの性格付けですね。自殺騒動のあたりは原作が最も、いかにもありそうで、またラストも岬ちゃんとの関係に限ってみれば原作が一番説得力があって良いですね。最後の最後は共依存のであきあがりで、佐藤くんの問題自体は何も解決してないけれど、これくらいがちょうど良いかもしれません。問題に対して、自分なりの向き合い方を見つけてるという点では漫画版が一番ですが…

それにしても原作・文庫版の表紙の岬ちゃんのイラスト、よく見ると目の隈がすごくて、やはりヤンデレの気が…と思う次第。。